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風船

昨日お寺で人形劇をした。
その日はお釈迦様の誕生を祝う「花まつり」だった。
人形劇の後には、子どもたちにお寺の住職さんから甘茶とお菓子、そして風船が手渡された。
自分で膨らませる風船ではなく、ふわふわ浮くやつだ。

住職さんは「手を離したらあかんぞ、あんな風に飛んでっちゃうぞ~。気をつけろよ~。」と言って風船を渡した。
あんな風にというのは、この日の人形劇の一場面に、女の子が持っていた風船が手を離れて飛んでいってしまう場面があったからだ。風船が飛んでいって女の子は泣いてしまう。

子どもたちは色とりどりの風船を持って楽しそうだ。

人形劇も終わり、私は舞台をバラし片付けていた。
すると、一人の女の子が私のところに来てこう言った。

「わざとじゃないんだけどね。」

私は何がわざとじゃないんだ?と思いつつ女の子に顔を向けた。

「わざとじゃないの。」

そう言うと女の子は頭上を指差したので、私も顔を上げた。

風船だ。お寺の高い天井に、赤い風船がある。

「あのね、わざとじゃないの。」

そうか。この事を言ってるのか。
二人風船を見つめる。
風船からヒモが下ってはいるが、手を伸ばしたって取れる距離じゃない。

わざとじゃない。
分かってる。
あのふわふわ風船は自分では作れないから、私だってもらったら絶対離さない。
わざとじゃない。

私はでも、なぜこの女の子は私に言ってくるのだろうと思っていた。
周りには背の高いおじさんやお母さんたちが何人もいる。
何なら大きな脚立だってその辺にある。
なぜ私にわざわざ言いに来るのだ・・
そもそも初対面の私への第一声がなぜこれなのだ・・
と思いつつふと自分の手を見ると、私は長い棒を持っていた。
舞台の緞帳としての棒で布が巻きついている。
女の子が気づいていたかは分からないけど、棒の先にヒートンまで付いている。

あ、イケる・・

私は棒を上に上げ、ヒートンに風船の持ち手を引っ掛け、
ものの一分とかからずに風船を降ろすことに成功した。

女の子に渡すと「ありがとう!」と笑顔で私に言った。

私は女の子が私に声を掛けてからありがとうと言われるまで、
自分が一言も声を発していなかったと思い、
「ああ、うん。」とだけ答えて、
また黙々と舞台を片付けた。



by ayajijo | 2015-04-06 17:40 | 日々  

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